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心がハマる場所を求めて、転々とした経験はいつしか肥やしに。

瀬川瑛子

ネビラキカフェ オーナー/ネビラキ 共同代表
岩手 西和賀

過疎地だからこそできること

─── 花巻に移住してからはどうでしたか?

2016年から花巻に移り住み、日本食べる通信リーグと東北食べる通信のスタッフとして働き始めました。東北各地の農家・漁師さんのところに行って、自然や地域のこと、先人の思いを大事にしながら食べものをつくっている姿や思いに触れ、価値観がおおいに揺さぶられました。

自然を相手にしている人達って、生きる力が圧倒的に違うんですよね。かっこよくて、うらやましくて。農家や漁師の方々の話を聞いていると「自分は社会に対して何ができるだろう?」って見つめ直す機会にもなったし、自然や人とつながりながら生きていきたいと強く思うようになりました。
自然とのつながりという意味で、良い水先案内をしてくれたのが、いまの夫です。

─── 花巻から西和賀に嫁いでくる形になったわけですね。

結婚前から西和賀の自然に心惹かれていたのですが、まさか住むことになるとは(笑)。西和賀は豪雪地帯なので冬は雪がとにかくすごい。そして、窓から見える錦秋湖の景色が美しいんです。一方で、過疎地で人は少ないし、みんな口を揃えて「若者が出ていくのは仕事がないからだ」って言う。西和賀に住んで最初の一年は東北食べる通信の仕事を続けていましたが、外に出稼ぎに行くのではなく、町の中でできる仕事を作ろうと思いました。当時はカフェもなかったので、湖畔の空き家に住んでいたんですが、ガレージを改装してカフェをやったらいいんじゃない?って話になって。自分たちでDIYをしてネビラキカフェをつくりました。

─── どんなカフェにしようと思ったんでしょうか?

西和賀の人も外から来た人も、誰でも気軽に来られる井戸端のような場所をつくりたいという思いがありました。明確な目的がなくても、人が集まっていろんな話が生まれて、人と人がかき混ざる、そんな場所になればいいなって。

あと、飲食店が本当に少ない地域なので、料理がめんどくさい人にとって助けになるような場が欲しいと思っていて、それも目的の一つです。まだ道半ばですけどね。いずれお惣菜とかも売っていけたらいいなって思ってます。

─── たしかここでチャレンジカフェのようなこともやられてましたよね?

そうそう。珈琲屋を開業したいという知り合いに、ゲストカフェとして店の定休日にコーヒーショップを開いてもらいました。
お店を開きたい人にとっては良いチャレンジの場になるし、私達は珈琲の知識を教えてもらえるので、そこはすごくウィンウィンでしたね。

あと、最近はカフェのInstagramの更新を、近所の高校生に任せたりもしてるんです。やっぱりSNSに慣れているので。誰かに任せるっていうところも大事だと思っています。

─── こうやって西和賀で行動している瑛子さん達の存在に、勇気をもらえる人は多いと思います。

自分がもし東京にいたままだったら、飲食店を持つことはなかったでしょう。上には上がいて、自信もないし、必要性もない。
でも、西和賀だったら比べるものがないから、やりたいようにやれる。小さくても自分ができることを形にしたら、ちゃんと仕事を作っていけるし、それなりに暮らせるんじゃないかという手応えを感じます。人がいない地域だからこそ、自分にもできることってあるんだなと、気付かされましたね。

─── これからどんなことをしていきたいですか?

目下やりたいのは、カナダ・フォーゴ島のゲストハウスで取り組まれている「経済成分表」というもの。売上の何%が地元に還元されたかをお客さんに見せるということをネビラキカフェでやってみたいです。西和賀産の食材をどれくらい使っているかを見える化して、年々この割合を増やしていきたい。

カフェもまだ伸びしろがあって、冬季休業期間中の仕事をつくるために惣菜業許可や菓子製造業許可も取りたい。

あと、本屋もやりたい! 学生さんが気軽に立ち寄って、本を読んだりダラダラできる居場所をつくってあげたいなぁって思います。若い人が来て、この辺りがもっとにぎやかになったら嬉しいです。

他にも、山菜や野草にも詳しくなりたいし、草木染もできるようになりたい……子育てをするようにもなったので、子どもと一緒に遊べる自然体験も学んでみたい。素晴らしい自然環境があって、自然に詳しい人がすぐ近くにいる恵まれた状況なので、時間を作って自然のことを積極的に学んでいきたいです。

時間も人も足りなくて……誰か移住してきて一緒にやりませんか?

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瀬川瑛子
1983年生まれ、東京都出身。国際基督教大学を卒業後、農林水産省、飲食業、PB食品のプロデュース等を経験。2016年、岩手に移住し、食べもの付き情報誌「東北食べる通信」の発行に携わり、東北6県を走り回った。2019年に夫と任意団体「ネビラキ」を立ち上げ、共同代表となる。ネビラキは、春の暖かい日差しを浴びた木の幹が熱を持ち、木の周りから円形状に雪が解けていく現象「根開き」に由来している。2020年7月に自宅ガレージを改装し「ネビラキカフェ」をOPEN。地元の食材を使ったデザートやコーヒーを、錦秋湖が見えるデッキでのんびりと堪能できる。
落ち着きのない人生だが、ようやく根を張りたいと思えた西和賀で楽しく生きていきたいと考えている。1児の母。

https://www.nebiraki.world/

インタビュー日 2022年5月19日
取材・文・写真 足利文香

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