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漁師ってカッコイイ! 20代のすべてを石巻に捧げました

島本幸奈

一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン 事務局スタッフ
宮城 石巻

30歳を前にまさかの病気。私は子どもが産めるの?

─── 漁師を目指す人はいくつくらいの方が多いんですか?

20~30代の独身男性がほとんどです。もともと別の漁港で漁師をやっていた人もいれば、元証券マンや建築関係の仕事をしていた人、料理人などいろいろです。なかにはこっちで地元の方と結婚した人もいます。でも、漁師は男の世界ということもあり、なかなか女性との出会いがない。そこで、婚活イベントの開催などもしています。

─── ここでもマッチングサービスが(笑)。ところで、幸奈さん自身はどうなんですか?

あはは、こんなに男の世界にどっぷり浸かっているのに、彼氏ナシです。私も今年30歳。結婚願望はあるんですけどね~(笑)。20歳でこっちに来て、20代のすべてをこの町で過ごしてきたわけなんですけど、30歳を手前にいろいろ考えてしまって……。

実は4年前に腎臓を悪くして、2週間入院したことがあるんです。病院に行く2週間くらい前から、足がむくむなどのサインが出ていたのですが、東京で大きなイベントを開催することになっていて、その準備に追われ、見て見ぬふりをしていたんです。そしたら、イベント当日に立っていることができないくらい悪化してしまい……。這うようにして石巻に帰って、すぐに病院で検査をしてもらったら、検査結果は3日後と言われていたのに、翌朝すぐに電話がかかってきて、即入院。仕事をたくさん抱えていたので、「今すぐ入院なんてムリです!」と抵抗したけど、ダメでした(笑)。

入院したらしばらく好きな物が食べられなくなる。そんな私を気遣って、同僚やボランティアをしていた頃の友達が入院前夜に集まって、「最後の晩餐だ~!」と盛り上げてくれて。みんなで記念写真を撮ったりしたんです。これからのことがすごく不安だったけれど、なんか勇気づけられて、落ち込んでも仕方がないって思えるようになれた。友達っていいなってしみじみ思いましたね。

─── その後、体調はいかがですか?

腎臓系の病気は、完治までに時間がかかるので、薬はずっと飲み続けていました。でも、それも先月ようやく終わりました。その薬は妊娠中に飲んではいけない薬なので、飲み続けることで妊娠の機会を逃したり、子どもを諦めるという選択をしないといけなくなってしまうかもしれない……という不安が常にちらついていました。

服薬していたこともあり、30歳を手前に結婚や出産を意識するようになり、そもそも自分は妊娠できるんだろうか? もしできなかったら、人生の選択肢が一つ減ってしまうのだなぁ~。妊娠・出産の機会に直面してからよりも、今分かっていた方がいいのではないかと思って、最近マタニティチェックを受けてみたんです。検査を受ける前は、どんな結果が出るんだろうってドキドキしていたのですが、血液検査だけで自分の身体のいろいろなことが分かって。AMH(卵巣年齢)まで出るんですよ。妊娠できる可能性があると分かって、正直ほっとしましたね。

今は女性もいろいろな選択肢がありますが、やっぱり30前後になると、結婚するのだろうか? 出産するのだろうか? とか、あれこれ考えると思うんです。そのときに、自分で自分の可能性を知っておくことは、大事だなと思いました。

─── これからのことは考えていますか?

20歳でこの町に来て、ここで10年暮らしてきましたが、いろいろな選択を積み重ねて今があると思っています。これまでやってきたことには後悔はありません。じゃあこの先はどうするか? というのは、まだ分かりません。夢や目標はあった方がいいと思うけれど、一方で先のことを考えすぎても……という思いもあって。それは多分、震災の影響が大きいのだと思います。明日のことは誰も分からない。だからこそ、今を楽しみ、今できることを頑張っていきたい。そう思っています。

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島本幸奈
1991年、千葉県君津生まれ。高校卒業後、ホテルの専門学校に進学するものの、机上よりも現場でこそ学ぶ価値があると、半年で中退。婚礼サービスを行うホテルに勤務する。20歳のときに、石巻市を拠点とする震災ボランティアに参加。そのまま継続し、石巻に移住する。2014年、フィッシャーマン・ジャパンの立ち上げから関わり、現在に至る。担い手を求める漁師と、漁師になりたい若者をつなぐマッチングサービスの窓口業務と広報活動を行っている。石巻在住10年。

インタビュー日 2021年2月12日
取材・文 石渡真由美
写真 古里裕美

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