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シェアする場をつくりたい、変化を続けるこの場所に

齋藤寛子

イラストレーター/アーティスト/放課後等デイサービスでのアートの先生
宮城・石巻

障がいのある人たちの作品に衝撃、ともにアート活動を

─── 石巻に戻ってからはアートやイラストの仕事が中心ですよね。どうしてそういう仕事に就くことになったんですか?
絵は、子どもの頃からずっと描いてます。高校生の時に美術系の学校に行こうか悩んで絵画教室に行き始めたんですが、私、絵を教わるのがすごく苦手で。全然楽しくないなあってサボり始めたら、子ども教室があるからちょっとバイトで手伝わない?って言ってくれました。中高生になって小さい子と接することがなかった時に、改めて子ども達が描く絵とか、発想とかに触れて、なんていいんだ! と思って。作風も自由でいいんだって子ども達に教えてもらえました。この経験はすごく面白かった。

この「ゴコッカン」という絵画教室の先生が、さっき話したNPO法人にじいろクレヨンをやっているんです。25歳で石巻に戻ってきてからも4年ほど、にじいろクレヨンのお絵描き教室での仕事をしていました。

─── 障がいのある子どもたちとのアート活動もやってますよね?
2016年に「あっぷるじゃんぷ石巻」という、障がいのある中高生のための就労特化型放課後等デイサービスで週に一回アートの時間を担当することになって。最初はレクリエーションだったんですが、作品を見ているうちに、あれ、これ仕事につなげていけるんじゃないかって思い始めたんです。さまざまな方が関わるようになって、一年に一度は石巻の旧観慶丸商店で作品展を行っています。オリジナルTシャツや小物などの商品販売もとても好評なんですよ。

私は彼らと出会って、本当にすごい絵を描く人たちだなって衝撃を受けたんですよ。そして、純粋に一緒にいて楽しいんです。けれども彼らと過ごしていく中で、「支援」というつながりをどうしても壁に感じてしまうときもある。私は、ただただ彼らと制作している時間が楽しくて、彼らと友達になりたいだけなんだなって気づきました。彼らが誰かと友達になれば、きっと彼らも生きやすくなると思うんです。友達としてちょっと支えてあげたりとか。そのきっかけが作れたらいいなと思っています。

─── 戸惑うことなどはなかったんですか?
そうですね。あっぷるじゃんぷの子達と出会って、もうちょっとこの世界を知りたいという気持ちが大きくなったタイミングで、NPO法人エイブルアートジャパンの方に紹介されて、登米の「にこま〜る」という障がいのある子どもの放課後等デイサービスにも行くようになりました。そこでコーディネートをしておられる「生涯発達支援塾TANE」主宰の櫻井育子さんと坂部認さんとに出会ったんです。ちょうど障害のある子が社会に出るということについて考えていた時で、すごくいい相談相手に巡り会えました。大人になってから意外と、本当に信頼して相談できる存在ってなかなか出会えないじゃないですか。本当に出会えてよかった。私の、メンター的存在です。

─── 石巻に戻ってから、もう、4〜5年は障がい者とのアート活動をしているんですね。寛子さんの中に変化がありましたか?
ものごとを、かなり多様に考えられるようになったと思います。それまでだと、基本的には自分一人が生きてきた目線で、人と出会ったり言葉を発したりしてきたと思うんだけど、彼らとの出会いは、例えばこのペンを一つ使うのに、これをうまく使えない人もいるんだよなっていうことに気づかせてくれる。空間づくり、ものづくり、いろんなことを、いろんな目線で考えられるようになりました。言葉一つにしても相手にとってはすごく暴力的に響いてしまうこともあるので、一旦立ち止まって考えることを忘れないよう、大切にしています。

それから、自分の場所が欲しい、齋藤寛子の場所を作りたいっていう気持ちがすごく出てきました。様々な人が集う場所は、それぞれのカラーがあるから、もっともっといっぱいあったほうがいいと思うんです。そこに合わない人がいたとしても、もしかしたらここには合う人がいるかもしれない。

─── 場所って、具体的にはどんなイメージなんですか?
アトリエを作りたいんですよ。自分のアトリエで、来る人も参加できるアトリエ。障がいを持っている人たちに来てもらうというと、画材が用意されていて教えてくれる人がいてという形になりがちなんです。でも、私の中では「支援」ではなくお互いが平等な関係性でいたいと思っていて。画材は自分が必要なものは自分で揃えてきてください、相談には乗るし、お互いサポートし合おうっていう感じにしたい。いち友達、いちアーティストとして、アトリエをシェアしている感じでやりたい。2021年はすごく動きたいなって思ってます。

─── 畑も、アート活動も、自分から出てくる気持ちみたいなものを感じます。しんどい時もあると思うんですが、どういうところにモチベーションがあるんですか?
畑は収穫だけを目的としているわけではないんですよね。成長していく過程、変化していく姿が見てみたいというのがあるのかもしれません。ロマネスコが当たり前のように売られているけれど、どんな風に育つかすごく気になる、一から作ってみたい、見ていたい。自然と湧き出る興味が自分を突き動かしてます。畑は今は冬だからあまり種類がないけど、ロマネスコの他に、アーティーチョーク、カーボロネロ、花豆、ビーツ、仙台雪菜、日本ほうれん草、三善大根なんかがあって。果樹もりんご、プラム、ブルーベリー、ハスカップ、さくらんぼを植えてます、だんだんいい森にしていきたいなと思う。このままいくと蛇田地区がコンクリートになってしまいそうだから、この土を残していきたいなって思っていて。

モチベーションは、楽しさでしょうか。全部楽しいからやるんだと思います。いろんなことを毎回楽しんで、毎回新鮮な気持ちでいられる、そういう性格なんだと思います。いろんな顔の私がいて、ある顔が違う顔を補ってくれている。畑で辛いことは絵が補ってくれたり。編み物、縫い物、染物と多趣味ですし、最近また歌も歌い始めました。ちょっと行き詰まるなっていう時、一人で補いあえてるのかもしれませんね。

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齋藤寛子
1990年、石巻出身・在住。19歳で憧れの石垣島に移住、25歳の時に石巻にUターンし、自身のアート活動とともに、障がいのある子どもたちの放課後等デイサービスでアートの時間を担当。峠の市やひころマルシェのポスターほか、地元のお店のロゴやイメージイラストを多数手がけている。畑を始めてから、野菜や花の絵をよく描くようになった。

●NPO法人にじいろクレヨン https://nijiiro-kureyon.jp
●放課後等デイサービスあっぷるじゃんぷ石巻 https://applefarm.co.jp/day-service
●放課後等デイサービスにこま〜る(NPO法人奏海の杜) https://kanaminomori.org
●生涯発達支援塾TANE https://ikuko-sakurai.com

インタビュー日 2020年12月18日
ライター 塩本美紀
写真 古里裕美

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